航宙機動部隊第二章・34

まっかつ  2007-05-23投稿
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『そんな事よりさあ―君だってこんなド田舎に飛ばされて、不本意何だろう?言わなくても分かるよ?』
聞くものの大半に生理的嫌悪感を催させる猫撫で声が、フーバー=エンジェルミの口から奏でられた。
『実際君の所、落ち目がちだしね、最近?僕はね、助けてあげても良いと思ってるんだ―君も、会社もね?』
声よりも更に不気味な前置きだったが、誘惑がそれをも上回り―そして、世馴れ過ぎた年少者の見立て通り、A=キネはおそるおそるながらも、撒き餌に食い付いたのだ。
『はは…まあそうでは有りますが…何か又、数字が稼げるスクープの一つ二つでも起きれば良いですな、とは…』
すると、両手の突かれたテーブルが乾いた音を立て、妖しい美貌が多少は迷いを見せるディレクターの耳元まで肉迫し、濃厚過ぎる甘ったるい臭気と囁きを吹き込んで来た。
『それを僕が造ってあげるんだよ♪今までの散発的な騒ぎじゃオードブルにもならないって言うんだろ?だったら取って置きのネタを用意してあげようじゃないか♪パレオスだけじゃなくて、全銀河が踊り狂う位のをね♪』
『そ…そんな…この辺境で特大キャンペーンを組めるだけの事件が…帝国以外にも!?』
無遠慮に鼻孔を刺激され、吐気を覚えながらもA=キネは確かめると、更に悪い事に、いやらしい手付きが彼の肩から背筋を撫で回して来た。
『間もなくティヴィタヴェキアにね、目障りな奴が一人降りる予定なんだ―タレント気取りのそいつは、友好・親善とやらを旗印に僕達尊貴な血筋に唾する積もりだ。だから赦せなくてねえ―正義の鉄槌を下す事に決めたよ、みせしめにね』
ようやく自席に戻り、太子党の総師はホラー映画じみた抱擁から、相手を逃れさせてやったが、今度は別の不吉さに、A=キネの全身は悪寒と震えに取り付かれた。
『だったらいっそ、出来るだけ人の多い所で手を下した方が良いじゃないか?場所とかは後で教えるからさあ。しっかり放映してくれよ。そうそう、出来れば実況を加えた方が良いな』
『そ…それは…幾等何でも…』
良心よりも単純に恐怖で、ディレクターは困惑を示したが、陶磁器から燻る湯煙の向こうで、脚を組み代えたフーバー=エンジェルミは無表情のまま、
『僕も暇でないんでね―嫌なら別に無理強いはしないよ?その暁には競合者が得をして、その分君が不利になるがね』

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