鬼門?
鎖から解き放たれた少女は目の前の幸司を威嚇するように睨みつけた。幸司がゆっくりと彼女に近づき腰を屈めた。
「おい…ヘーキか？」
幸司が手を伸ばす。だが少女は幸司の手を払いのけ、首もとに噛みついた。
「幸司！」
天馬が思わず声を上げる。
「だから…言ったのだ…その娘が人になじむはずなど…」
天馬が押さえつける腕に力を込める。幻燈斎が痛みに苦しんだ。
「ん…大丈夫」
幸司が明るく笑った。そして手を伸ばすと、少女を抱きしめる。彼女は驚いたように身悶えした。
「冷てぇなー…風邪ひくなよ」
幸司が微笑んだ。
「ああ…うぅ…」
「言葉わかんねーか。まぁ覚えりゃいいさ…」
そういって幸司は少女の頭をグシャグシャと撫でた。少女の目から涙が流れていた。
「幸司…」
天馬が思わず幻燈斎を押さえていた手に力を込める。幻燈斎バタバタと暴れるが天馬にはきこえていなかった。
「はい、ストップ」今まで事の成り行きを静観していた蔵王丸が落ち着いた口調で言った。
「天馬くん、離してあげなさい」
「蔵王丸さん…」
天馬が幻燈斎を解放する。蔵王丸は幸司の方を向き返り、笑いながら言った。
「幸司くん、その娘のことは君に一任します…せめて、言葉くらいは教えてあげなさい」
幸司が頷く。
「さて…明日の準備もあるから、二人とももう寝なさい」
そういうと蔵王丸は幻燈斎をおぶって奥の院を出ていった。
「蔵王丸…貴様何を考えている…あの娘恐らくは神のゆらぎより生まれし現幽心…あの娘を外にだせば…」
幻燈斎が憤慨した様子で蔵王丸に苦言をたれた。だがそんな言葉を受け流すように蔵王丸は微笑んでいる。
「大丈夫ですよ。もともとそのつもりで二人を連れてきたのですから」
「だが…！」
尚も食い下がる幻燈斎に蔵王丸の表情が変わった。
「しつこい人は…嫌いですね…」
幻燈斎は押し黙り、蔵王丸もいつもの笑顔に戻った。
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