今でもたまに夢に出てくるあの後ろ姿に、胸が苦しくなる。僕はただそこに立っているだけで、君の肩から首のなめらかな曲線を眼に焼き付けていた
風が、強く吹き付ける日だった。
美しく吹かれる君の黒髪をかすりもせず、汽車のドアが閉まる。甲高い汽笛。
ガラス越しの君が振り向いて、手を振った。笑いながら。
僕もそれに応えて手を振った。君が笑っていたから僕も笑おうとしたんだけど、どんな表情をしていたのか実際のところは分からない。きっと、君だけが知っている。
汽車が動きだす。君が視界の端に流れていく。
片足が微かに反応したが、僕はやっぱりそこに立っているままで、煙を吐きながら走り去ってゆく汽車を見送っていた。
走り出さなかったのは−−−−…追いかけても無駄だと、分かっている僕の思考が残酷な程冷静だから。
あの時、君が背を向けたあの時、何かできることがあった筈で
たとえ未来が変わらなくても、君を最後抱きしめて、キスをして、
そしたらこんな後悔は、生まれなかったかもしれない。