でも懐かしい気持ちになった。素直に、また会いたいと思った。
これが本当の夏の始まりだった…。
「再会」
或る蒸し暑い午後のことだった。
私は、ある心の病の療養中で良く言えば家事手伝い、自由な身だった。
その日は本屋に立ち寄った帰りに喫茶店でお茶を飲んでいた。
つい、買ったばかりの推理小説に夢中になり長居してしまった。ふと気付くと、もう夕方だった。
窓からの景色は、家路に急ぐ会社帰りの人達、学生らしき若者、これから繁華街に繰り出そうという人達で、溢れていた。
ぼんやりと眺めていたが、そろそろ帰って夕飯の支度をしなければ…。
外に出ると、夕方なのに、まとわりつくような湿度と熱気で夕立の気配を感じた。
喫茶店の窓からでは気付かなかったが、空を見上げると重たい雲に覆われていた。
ぽつり。
私の頬に雨粒が落ちた。
あぁ、やっぱり夕立だ…。でも、どうしよう、傘がない。濡れて帰るしかないか…。
いきなりザーっと激しい雨が降り出した。
何処か店に入ってやり過ごすしかないか…。
私は仕方なく、或る駅の改札口のあたりで雨宿りすることにした。
ぼーっと立ちすくむ私…、心と裏腹に雨は激しく降り続ける。
いつからか、あまり感情が湧かなくなった。
この雨のような激情に駆られることもない。
色々な出来事が、いつも自分とは関係なく過ぎ去って行く…。
私は、ただの傍観者。自分の人生さえ…。
突然、目の前を通り過ぎた青年に、あれ?と思った。このあいだ会った彼に似ているような…。
彼は乗っていた自転車から降りると、私に近付いて来た…。
「また会えたね」
彼がそう言った。
やはり、あの彼だった。
「そうですね」
また出会えた喜びと不思議な気持ちが、心の中でグルグルと渦巻いていた。
この気持ちの正体を掴みたい…、しかし何故か今は成り行きに任せようという気になった…。
それで良いと思った…。