俺、笠木広人は下校途中ある女性に出くわした。
「あ、笠木くんじゃない。」
恐ろしい程整った顔立ちの、由良という名の二年生。俺の先輩だ。
「珍しいですね、先輩がこんなに早く帰るの。」
家が近所なのでそれなりに親しい。
会話は取り留めのないものばかりだが。
「んー、今日は白木さん休みだったからねー。」
白木という人がいたら遅いのだろうか。
「あの娘はどうしたの?ほら、高崎さん。」
今日ミクはカナリと出掛けている。俺の身代わりと言ってもいいが。
「そんな毎日一緒、てわけじゃないですし。」
「ふーん。」
そんな時、ふと思い出した。あるクラスメイトがボロボロの出で立ちで登校して来た日のことを。
「あの、先輩。ちょっと漏れ聞いたんですけどね。」
「盗み聞き?」
「偶然ですよ。」
先輩がくすくす笑っているが気にしない。
「下校中の片桐篤を半殺しにした、て噂なんですが。」
「かたぎり…?半殺し、あ!あぁ!あの一年か!」
名前を知らなかったらしい。片桐の怯えきった目を思い出す。
「もう一週間か。どうよ、あいつの様子は?」
「はぁ、なんか女性不信に陥ってるようですが。」
「…やっぱ極端野郎だな。」
先輩がガリガリと爪を噛む。
「今度再矯正に行かないとな。笠木くんと同じクラスの片桐篤、な。覚えた。」
…ごめん片桐。死ぬなよ。
「笠木くんは?学校楽しい?」
「?」
全く脈絡無く出された問いに俺は答えられなかった。
「つまんない?」
「え?いえ、今は楽しいです、けど?」
「そっかそっか。」
笑顔で頷く先輩。これであの変な所がなきゃモテるんだろうに。
「あ、じゃ俺ここですんで。」
「うん。あ、高崎さんによろしくね。」
「はい。」
「…片桐篤にもね。」
ニヤリ、と獰猛な口元を見せる。
「…はい。」
すまない片桐。お前を死地に送ったのは俺のようだ。
まぁやめてくれ、とは言わないが。言えないし。
去っていく由良先輩を見送り、俺は自宅に入った。
「…!?」
「どうした片桐。急に後ろなど振り返って?」
「いや、後ろに立たれたような?」
「どこの狙撃手だ貴様は。」
「まぁそれは冗談だが…。」
「で?」
「いや、明日は学校休んだ方がいい気が。」
「終業式をサボるつもりか?」
「…だよなぁ。でもすげぇ嫌な予感。」
「不吉だな。」
「あぁ。」