僕が、君を愛したのは必然で
君を拾ったことも必然になるわけで
でも、そしたら
君が背を向けたあの時も
必然になるのかな―――…
「旦那様、今日もいい天気ですね」
庭の丸い白テーブルで本を読んでいた僕はふと顔を上げた。
「お茶でも飲みませんか?」
ティーポットとカップを持ってきて微笑む彼女がいた。
「旦那様は、本がお好きなんですか?」
どうして?とききかえしたら、彼女はむぅと頬を膨らませ
「私と話す時はちゃんと私と向き合ってください」
と、言った。
「ああ、ごめん」
僕は慌てて眼鏡をとって本から目を離す。すると彼女はクスクスと小さく笑った。
「…どうして笑うの」
だって、と彼女は本当に可笑しそうに言った。
「あまりにも素直だから…。叱ればいいのに。゛使用人のくせに生意気だ゛って」
「僕はそんなに短気じゃないよ」
「そうですね」
いつまでも笑っている彼女が愛しくて。いけないと分かっていても、抱きたいという欲望が喉を突く。
「でも私、本を読んでいる時の旦那様、好きですよ」そんなからかいだって本気にしてしまうほど、余裕がないと君だって知っていたくせに。
この日も、僕は彼女にキスをする勇気がなかった。