再出発
2人は一度城に引き返し、休みを取り、出直すところだった。
出発しようと、城の出口付近まで歩いていると、後ろからちょっと、声をかけられた。
2人が振り向くと、身長180cmぐらいで、ヒカルの上半身ぐらいある刃渡りを持った大剣を背負っている長髪の男が立っていた。細身の男だが、ヒカルはその男の威圧感に圧倒されていた。
「キミ達はこれから出発かい?」とその男は優しい声と口調で言った。
「アナタは誰なんですか?俺達は出発だけどアナタは?」とヒカルは言った。リリは男から目をそらしている。
「僕はキルバァって名だよ。よろしく。僕も出発するんだ、少しキミ達に遅れてだけどね。」とキルバァはまた優しい声と口調で言った。
「キルバァさん、よろしく。でも出発って言ってもパートナーはどこにいるんですか?」とヒカルは聞いた。
「僕にパートナーは要らないんだよ。もうパートナーは僕の中にいるんだ…ずっとね。」とキルバァは優しい口調だが、どこか厳しさを持って言った。
「…詳しく聞かせてくれませんか?」とヒカルはマジメな表情で聞いた。
「僕はこれから二度目の《出発》に出るんだ。そして僕は一度目の出発でパートナーを亡くしているんだよ。」とキルバァは表情を崩さずに言った。あいかわらず優しい口調だった。
そしてキルバァは遠くを見るように前を向き、「僕はその人を愛していたんだ。その人が戦いで死んだとき、城に戻り、愛する人を守れなかった自分を恨み、愛する人を殺した魔族を恨んだんだ。もう2年前のことだけどね。」と続けた。
「辛いですね…。」とヒカルは簡単に答えた。リリはずっと黙っている。
「僕は強くなった。魔族に復讐するために。そして一人で戦えるようになるために。僕にはパートナー要らない。マリナ以外のパートナーは要らないんだ。」と今度は強い口調で言った。
「復讐の為に強くなり、再出発するのは間違ってると思います。俺達はもう行きます。それでは。」とヒカルは冷たく言い放ち城から出た。
2人は無言で歩き続けた。城がどんどん小さくなり、エミリアが眠る場所を通り過ぎ、周りには草原が広がっていた。2人はエミリアの墓を事件の直後にたてていた。
前にポツンと立っている一本の木の下には一人の男が立っていた。野心的な顔だった。
男はゆっくりと2人に近づいてきた。