「原題はオタクの極め方、というのだ。」
すまん、嘘だ。忘れてくれ。
俺の名は片桐篤。キングオブオタクに半ば拉致される形でエロゲ窟へ連れ込まれる所だ。
「ほれ、手前は普通のパソコン売り場だ。見ているといい。」
そう言って俺の拘束を解いたのがオタク王、久保匠。
早足で店の奥へ入って行った。何やらディープな空間のようだな。近付かないでおこう。
「しかし、パソコンか。あってもいいよな。」
我が家系は機械音痴のケがあるらしく、我が家の最新ハイテク機器は俺のカラー画面メール機能付携帯電話だ。
問題あるな、うち。
かと言って俺は全く苦手でない。
「まぁ、こんな数字並べられてもすごいかどうかはわからんが。」
「ハイクオリティのゲームをするには数字が大きい方が快適ですよ。」
突然声を掛けられる。
音源を探せばそこには店の名前がプリントされたエプロンを着けたやや年上の女性。
「え、あ、そうなんですか?」
「久保くんの友達よね?どんなゲームするの?」
久保。お前覚えられるほど常連か。ってか制服ですよ。法律とか違反してんじゃないのかこの店は?
「いや、パソコンのゲームとかはやったこと無いんです。」
我が家の最新ゲーム機は初代プレステ。
「久保くんのやるようなのはこれ位で十分かな?」
と値段も手頃なものを指す。それでも俺には高いが。
それよりも、動いた時に髪がふわって、いい匂いがふわって。
「どうしたの?」
どこかの誰かとは全く違う優しげな微笑み。
うぁ、まずい。
「さて片桐、目当てのものは手に入れた。移動するぞ。」
タイミング悪過ぎだ馬鹿野郎!
「ありがとうございました、久保くん。」
「おや、江崎さん。昼頃いるなんて珍しいですね。」
「大学が夏休みだから。」
「そうですか、ネトゲし放題ですね。」
「バイトで忙しいけどね。」
ふ、二人の会話に入っていけない。
「ではまた。次の良作が出る頃に。」
「ありがとうございましたぁ。」
久保と連れ立って店を出た。
そうか、江崎さんという大学生なのか。
「どうした片桐。ぼうっとして?」
「今の人ってどんな人?」
「…江崎さんのことか?彼女は、大学三年のオタク少女だが?」
なるほど、オタク少女。いやお姉さんだが。それもいいかもしれない。
「…片桐?」
俺を覗き込む久保なんか目に入らなかった。