『良し、良いぞ。テンペ!』
スポーツ観戦以上に手に汗握る物がある。
それに任務と国益が伴っているのなら尚更の事だ。
スタジオから上空凡そ八0万Kmの衛星軌道上連合艦隊旗艦《D=カーネギー》にて、リク=ウル=カルンダハラは平面ホロ画像相手に声援を送っていた。
たかだか一五才の少女にここまで出来たら寧ろ異常だ。
この政治的イリュージョンのタネを知ってるのは当然観戦武官だったし、その大本を辿れば祖国の元老院に行き着く。
だが、演技指導までした分けではない。
またしたくても、そこまでの余裕等無かったのだ。
そう、如何に振る舞うかについてはほぼ完全に少女の裁量に委ねられてた。
そしてテンペ=ホイフェ=クダグニンは今の所、与えられた役柄を見事にこなし切り、センスの非凡さを証明していた。
だが―\r
『それは聞き捨てなりませんな。一体何の根拠が有って辺域の群狼共にエレガントな方策を適用せよと?』
間髪なく同席者の一人から辛辣かつ容赦の無い横槍が繰り出されて、
『な…何だよ、こいつ!』
唐机にかじり着いて慌て出したのは若き視聴者の方だった。
反論の主はどこから見ても、凄腕の特務以外には考えれない男だった。
全身から漂わせる隙の無さと磨ぎすまされた鋭さに体得され尽した不遜な態度―\r
『エージェントか。公社の』
それだけ見ればリクがわずか六秒で答えを出すのに苦労はしなかった。
『エンリケさんはそうは思わないのかね?』
司会者に話を振られて彼は傲然と言い放った。
『当たり前でしょう!だったら何故、これまでパレオスが出して来た和平なり停戦なりを奴等が蹴り続けて来たのですか?全ては力で決めるんですよ、帝国はね。血に飢えた猛獣に理想だの正義だのが通用すると?甘くて幼稚な空論と言わざるを得ませんな!』
『はい、そうです。力が全てを決める相手だからこそ交渉に希望が持てるのです』
しかし、テンペは軽く三桁は格上に逆説でやり返し―\r
『…何ですと!?』
エンリケに素で不快感を露にさせるまで不意打ちを喰らわせて見せたのだ!
『統合宇宙軍が今までパレオス星邦と対話を持とうとしなかったのは、それこそ軍事バランスで六三倍と言う極端な格差が有ったからです。ですが、合衆国の艦隊派遣で、今や一00対八五と、形勢は逆転し、更に味方の戦力は日を経る毎に増加しています』