「ロン」
トータル一万勝ち。これで姉貴にふんだくられた分が回収出来た。上出来だ。
まあ、勝つ俺がいれば負けるコイツもいるわけで…
対面のコイツは燃えつきたのか、雀卓に倒れこんでいる。やや、白みがかっている気もする。しかし、コイツの諦めの悪さは並じゃない。
「…も、もう半荘…」
そら来た、コイツの勝負弱さは天性のもんなのに、それ以上に諦めが悪いから始末に終えない。
「もう辞めとけ、どうせ負けるんだから…」
冷静な追い討ちをかけたのは俺らの一個上の先輩、修さん。
コイツこと、小早川和雄の高校からのサッカー部の先輩でもある。…ちなみに修さんもコイツから七千円勝っていた。
「カズ〜、いつも思うけどお前諦め悪すぎ…。まだ絞られたいの?」
「コウ、てめッ〜!!ハイエナのくせして偉そうに!!」
カズがもう一人の麻雀仲間のコウを睨みつける。
カズは尊敬する修さんには何を言われてもいいのだが、同年の俺やコウに言われるのは非常にムカつくらしい。
しかし、コウもいつも数百円程度しか勝てないという理由で俺達に付けられた『ハイエナ』というあだ名にコンプレックスを持っている。
「てめッ!!禁句を言いやがったな!!ボロ負けのクセに!」
だが、コウの勝ちは五百円だ。
いつものことだ。いつもならここで…
「ケンカすんじゃねーよ。今日の予定無しにすんぞ。」
やはり、修さんの仲裁が入る。しかし、二人をおとなしくさせる予定って…
俺は思い出したくない予定を思い出した。その予定には、不本意ながら俺も頭数に入っている。
俺は何も無かったかの様に静かに立ち上がり、カズの部屋を出ていこうと雀卓に背を向けた。
だが、時既に遅し…
「帰ってもいいが、どうせ迎えにいくぞ。通り道だし。」
見なくても分かる、今カズはウサギを見つけたキツネの様な薄気味悪い笑みを浮かべているのが…
俺は観念して、今火をつけた煙草の煙と共に、大きなため息をついた…
外では、まだ土から出てきたばかりのアブラゼミが俺の気持ちとは裏腹の大きな鳴き声をあげていた……