ヤス#55
【タットブ】
ヤスが成長した。
母は時々、寝こむようになった。余り体が丈夫でないのがヤスにとって気がかりだった。
母の純子はヤスを溺愛した。
ヤスは最近になって、五年前にサトリから聞いた話がようやくわかるような気がした。だが、あくまで、気がしていただけである。ヤスは恋などした事がなかったのだ。
この春、中学に上がる。流石にサルマタははいていない。
今は三年前から始めた剣道の修練に余念がない。勿論、剣道を始めたきっかけは母を守るためだ。サトリはシットがまた襲ってくるだろうと暗に話していた。その時の為に強い男になっておく必要があったのだ。
もう、母の乳房に顔をうずめて泣いてはいられない。
サトリとは時々会っている。サトリは身になる話をよくしてくれた。
木の上にサトリがいる。グミの実を食べていた。やはり、どう見ても猿のようだった。
「だから…サルではないぞ。フオッ、フオッ、フオッ」
「サトリは人の心を読むんだね。嫌われるぞ。ハハハ」
「嫌われるも何も、話すのはヤスしかいないものでな。フオッ、フオッ、フオッ」
「そうか、お前も淋しいのだな」
「あいや?どうした。ヤスは淋しいのか」