ヤス#56
「そういう訳ではないがね」
「では、どういう訳だ?」
「実はな…」
「ふんふん…実は?」
「昨日、爺さんと漁に出たんだ」
「ふんふん」
「最近は漁が少なくてな…それで、爺さんが、俺には漁師を継がせないと言ったんだ」
「ヤスは漁師になりたいのか?」
「ああ、漁師になりたかった」
「では、何故ならぬ」
「俺はね、爺さんを尊敬している。その爺さんが俺に絵描きになれと言っているんだよ」
「絵描き?それにしても、また、しみったれた仕事だな」
「ハハハ…まあ、そう言うな」
「絵描きになったら、また、貧乏するぞ」
「うん…だろうな。だが、俺は漁師以外に出来る事と言ったら、それくらいしかないんだよ」
「…と言う事は、島を出ると言う事か…」
「まだ、先の話だがね。いずれはそうなるかな…」
「あいや…困ったな…」「何が困る?」
「ヤスにはこの島に留まって貰わないと困る」
「何故だ」
「何故と言われてもな…」
「サトリ…何故だ?」