鬼門?
鬼門封じの儀式が始まった頃…。
本堂にはもう一つの影が近づきつつあった。
「もう向こうじゃ儀式が始まった頃かな…」
天馬が腕時計を見ながら言った。本堂内部には天馬を含め、僧兵が数名。外には更に多くの兵達が配備されていた。
(なんかなぁ…俺こういう雰囲気苦手なんだよな…)
周りには物々しい空気が流れ、屈強な体を持った僧兵達がウロウロしている。天馬が思わず溜め息をついた。天馬は軽い仮眠をとろうと目を瞑った。
「安藤殿…」
どのくらいたったのか。天馬は僧兵の一人に声をかけられ目を覚ました。
「…どうした?」
天馬は眼鏡をとり目を擦りながらその僧兵に聞いた。
「敵のようです。正門が突破されたとの連絡が…」
「そうか…」
ここで待っていたのは正解だったかもしれない、と天馬は感じた。正門から本堂までは一直線。敵が鬼門を目指すなら本堂は避けられない筈だ。
「よし、お前は鬼門にいる幻燈斎様に伝えろ。もし鬼門が狙いなら敵はここを通る筈だ…」
僧兵は頷くと鬼門側に向かって走っていった。それと同時に本堂内に子供の笑い声のような奇妙な音がこだました。
「!?」
同時に本堂前の見張り達の悲鳴も聞こえてくる。重く不安な空気が流れる。
「……おい、お前らは幻燈斎様の所へ行け…」
天馬が僧兵達に向かって言った。
「しかし…」
「いいから!」
天馬の怒号のような声に後押しされるように僧兵達は本堂から出て行った。
静まり返った堂内に小さな影が現れた。影は小さな少女だった。砂羽よりも年下に見える。
「なんだお前?」
天馬が訝しげに少女に言葉を発した。少女は笑い声を上げ、天馬を見据えた。
「人に名前を聞く時は〜自分から名乗るものだよ〜」
嫌に明るい口調で少女が答えた。天馬は頭を掻くとまるで溜め息を吐くように言った。
「安藤天馬…」
「あたしは〜瑪瑙ってゆーの。可王さまの下僕なんだよ」
少女が明るい笑いを振りまき言った。