美樹が入院している病院は、学校と塾のちょうど真んなか位に位置している。
だから塾がある日は、大抵美樹に会いに行っていた。
小児科の大部屋に入ると、美樹は窓際の、いつもの定位置で本を読んでいた。
『あっコウ兄ちゃん。とユキくんだ!!』
美樹は俺達に気付くと本なんかほっぽりだして、手を振ってきた。
『よっ。美樹ちゃん久し振りぃ。具合はどう?』
『うん。もう大丈夫!!だってもうすぐ退院だもん!!』
美樹の顔色が良いのを確認して俺は少し安心した。
『美樹、本は大切にしなきゃダメだろ。』
『あはは。ごめんなさーい。』
本のことなんか忘れていたのか、美樹は照れくさそうに笑った。
『そういえば、美樹ちゃんは何を読んでたの?』
『かぐや姫だよ。』
『へ〜。かぐや姫かー。』
ユキは何気なく本を手にとった。
『ん?…コレ竹取物語じゃん!!』
『そだよ。』
『そだよ。って古文じゃん!!…美樹ちゃんこんな難しいの読めるの?』
『うーん、半分くらいは。わかんないところはコウ兄ちゃんに聞いてるの。』
『コウ!!マジか!?』
『マジだ。』
美樹は生まれてから殆ど外に出て遊ぶことがなかったため、ずっと本を読んでいた。
その影響なのか、国語能力に関しては6歳児にしては有り得ないレベルまで達していた。
『こんなの俺、質問されてもわかんない…』
ユキはリアルにヘコんでいた。
『落ち込むなよ。これは美樹が異常なだけ。』
『お兄ちゃん、それひどーい。』
美樹がむくれた顔で言った。
でも実際、美樹の高すぎる国語能力で、小学校に入ってから同い年の子達とうまくコミュニケーションがとれるか、俺は心配していた。