「おしっこぉ」
華奢な男と、デカい女。
その間に“捕らえられた宇宙人”状態の幼い少年。
三人は、駅前の大きな通りを歩いていた。
「お、おしっこね…っ
ちょっ、もちょっと我慢出来る〜??」
男は必要以上に焦りながら、公衆トイレを求める。
「ミケぇ」
女が、片手に持ったアイスクリームをほおばりながら呟く。
「もし漏らしたらアンタをぶん殴るからね」
『ミケ』と呼ばれた男が、驚愕の表情で固まる。
すると幼い少年が女を指差し、
「アイスたべたい」
と無邪気に言った。
「えぇ、おしっこは!?」
ミケが一瞬コケるフリをする。
「イーヤ。」
女はぷいとそっぽを向いてアイスをひとなめする。
汚れるのも気にせず豪快に食べる為、溶けたアイスが首筋にしたたる。
生唾を飲み込まずにはいられないミケ。
(「や…ヤバい、キレイ…」)
すると、女はアイスの雫を拭って、彼を睨みつけた。
いかがわしい視線に気づかれたからかと身構えたが…
「ってかさ、交番行くんじゃなかったの?
いつまで迷子連れて歩かなきゃなんないのよ。
それともアタシとデートするのがそんなにイヤ?」
「滅相もない!!」
ミケは、女『イバラ』とデートするこの日を、二年弱も待っていた。
ミケはイバラの彼氏でもなければ友達でもない。
言わばパシリで、言わば『飼い猫』である。
それでもミケは、美人で独裁者なイバラに惹かれずにはいられない訳で…
ここから先続くかも解らぬこの物語は、二匹の猫とデカい女飼い主の日常と(猫の)受難を描いた、フィクションである。