『あっ!!』
いきなりユキがすっとんきょうな声をあげた。
『やべっトイレ行きたくなって来た。』
『なんだトイレか。ビビらせんなよ。』
『ユキくん。トイレはここ出て左行けばあるよ。』
『おぉ。美樹ちゃんサンキュ!…ちょっと待っててな。』
ユキが怒られない程度の速さで駆けていった。
『…ありゃ長いな。』
付き合いが長いからか、何となくわかった。
『あっお兄ちゃん。そのポケットから出てる紙なーに?』
一瞬ドキッとした。
『えっ!?ほっ保護者宛ての手紙だから美樹には関係ないよ…』
とっさに嘘をついた。…これがまずかった。
『あっ、お兄ちゃん嘘ついたでしょぉ。美樹、お兄ちゃんが学校からの手紙をちゃんとファイルに入れてるの知ってるもん。』
『…今日はたまたまだよ。』
進路希望調査票なんか普通は分かりっこないけど、美樹のことだ。理解する可能性は高い。
見られたら…そんなことを考えて自分が焦った顔をしているのに気付かなかった。
『お兄ちゃんがこんなに焦るとは…はは〜ん、なるほど。』
『なっ何だよ!?』
不気味な笑みを浮かべる妹に異様な気持ち悪さを感じた。
『それラブレターでしょ!!』
『はぁ!?』
あまりに意外な言葉に驚いた。
『お兄ちゃん憎いね〜この色男!!』
『えっ!?ちょっ!?てかそんな言葉どこで覚えてきたっ!?』
意外な展開に頭がついていかない、軽いパニック状態だ。
『美樹が見てあげる〜。えいっ!!』
パニクってる隙を突かれ、紙を取られてしまった。
『どれどれ〜…何コレ?…進路希望調査票?…期限は…先週だ…』
『返せっ!!』
『あっ…』
無理やり美樹から紙を奪い取った。
『お兄ちゃん…進路決まってないの?』
やっぱり美樹は理解していた…
『…』
うつむいたまま何て言えばいいのか考えた。…いっそ自分の思いを話した方がいいのだろうか。でも美樹は責任を感じるんじゃないのか?
頭の中がずっと混乱している。
『何で?…お兄ちゃんならどこでも行けるんじゃ…』
美樹はずっとこっちを見ている、いや、見ているのだろう。
うつむいた顔を上げられなかった…
『…美樹のせいだ…』
『えっ!!』
…今まで上げられなかった顔を思わず上げてしまった…
『美樹が病気だからっ!!…美樹がいるからっ!!』
美樹は…泣いていた…