「ずっと奈緒が好きだよ。」
本人を前にして言えなかった言葉を哲也は言った。
「さっきのは嘘だよ。奈緒は一言もそんな事言ってない。」
健吾は、坦々と話を続ける。
「俺ら、うまくいってるし、卒業したら結婚する。」
「俺は奈緒が幸せならそれでいい。」
意外な哲也の言葉に、健吾は戸惑った。
「は??何だよそれ。」
「俺は、奈緒に気持ちを伝える気ないし、2人の仲を壊す気もない。
ただ、奈緒には幸せでいて欲しい。」
「そ。分かった。安心したよ。」
哲也の奈緒に対する気持ちの大きさを、健吾は認識した。
同時に、自分の情けなさも痛感していた。
「あれ?健くん?」
奈緒のバイトが終わるのを健吾は裏口で待っていた。
「奈緒、話があるんだ。」
「ん??」
「今までありがとう。」
「…えっ…?」
「哲也、いい奴だもんな。」
「…健く…ん?」
「無理させてごめんな。」
「なんで?私無理なんて…」
「本当は、放したくない。他の奴の事を考えてる奈緒でも側にいて欲しい。」
「でも、それじゃあ、お互い辛いだけだから。…ね。奈緒。」
「……ごめ…なさい…」
奈緒の瞳から涙が溢れた。
「謝る事ないよ。ずっと気がついてたのに、無理させたのは俺なんだから。」
健吾は奈緒の頭を撫でる。
「ただし、ちゃんと、哲也に気持ちを伝える事。」
うつむいた奈緒の顔を覗き込み、ほほ笑みかける。
「…うん。」
伝えなくちゃ。
ずっと、言えなかった言葉。
壊れる事が恐かった。
離れてしまうことが嫌だった。
でも、今は、ゼロからだから…
ただ、聴いてくれるだけでもいい。
嫌われてもいい。
メールを打つ。
《哲、会いたい。》
返事はこなかった。