「まさか恋愛ものへ移行?」
いいえ、ノンジャンルですとも。
俺の名は片桐篤。人生初の告白…に近いものを受けて、軽く動転している高校一年生だ。
夏期講習も終わり、やっと夏休みを堪能出来る、という時に我が家に来訪者が。
「夏を楽しんでいるか若者よ。」
よくわからないことを言いながらやってきたのは久保匠。夏は忙しいとか言いながら結構俺と会う事が多い。
それでもってオタク。
「そろそろ俺も戦地へ赴くのでな、別れを言いに来たのだ。」
「…戦地てどこだよ。」
「有明だ。」
「…?まぁいいや、なんか飲むか?」
リクエストに沿うものがあったので階下から持って来てやった。…それにしてもなぜ我が家にガラナが?
「ガラナもなかなか奥が深くてな、今では道外でも様々な種類がある。」
久保はガラナのうんちくを語りながら黒褐色の炭酸飲料を呷る。ぶっちゃけどうでもいい。
「お前はその豆知識を語る為にうちまで来たのか。」
「豆ではない。ガラナは果実だ。」
「心底どうでもいい!」
俺が言いたいのはそういうことでもない。
「何を、しに来たんだ?」
「…片桐。」
「なんだよ。」
「俺は何しに来たんだ?」
「知るか!」
長期休みに関わらず疲れる奴だ。
「ふぅ、では行くとするか。」
「どこに?」
「有明。」
直行ですか、ここから。
「あと片桐、フラグが立ってるようならちゃんと消化しろよ。」
…バレてるのだろうか。
「俺は新学期ギリギリまで帰って来るつもりも無いからな。しっかりやれ。」
こうして、頼もしいオタクは旅立った。餞別としてガラナを持って。
「いや、いらんだろ。」
「まぁ十中八九空港で没収されそうだな、ペットボトルは。」
それでも持って、我が家を後にした。
「…さて、寝るか。」
ベッドに倒れ込む寸前に携帯が鳴る。重力には勝てず、一度倒れてから起き上がる。
画面を見ずに通話を押す。
『寝るな、即座に行け。』
「…久保、お前俺ん家にカメラとか仕掛けてないよな?」
ついでに俺自身に盗聴機とか。
『お前の事なら手にとるようにわかる。あと、要未優の口振りからの推測だが、外れでもないようだな。』
お前はすごいよ。鈍感と言われる事は無いだろうよ。
『行かなければ後悔するぞ。田辺和真の二の舞いだぞ。』
それは和真先輩に失礼だが。
「…わかったよ。」
電話を切った。