(身体が、重たい。)
小野瀬恵一(おのせけいいち)は、ベッドの上で身動きが取れずにいた。
深夜二時。違和感を感じた恵一は睡眠から覚めた。しかし目を開ける事が出来ない。
(これはひょっとすると、アレですか?)
科学的には、身体は起きても脳が寝てるとか云々。だが恵一は少しばかりそういう存在を信じていた。
見た事があると言う友人を羨ましく思ったり、テレビのそういった番組もよく見る。
(心霊現象…金縛り!)
ということは、目を開ければきっといるのだろう。
イメージとしては白い装束の老婆が。
(開け!俺の両目!)
開かない。
(うおおぉぉ!)
開かない。
(目の前に幽霊がいるだろうと言うのに!)
見たいとは思っているが、恵一は霊感が無いようで経験は一度も無い。
自らの瞼と恵一が戦う中、恵一の腹部に圧力がかかる。
まるで人一人が座ったような。
(つ、潰れる!?)
そう重くもないが、恵一は軽くパニックに陥った。
すぐに状況を確認しなければいけない。
気付くと目が開いていた。力も入れていないのに。
長く付け足した紐を引っ張って、部屋の電気を付けた。
明るくなれば、そこは見慣れた恵一の部屋。
六畳ほどのワンルーム。
腹に力が加えられている以外は全く違和感の無くなった身体で、恵一は暫く天井を見上げる。
(…これで腹の上を見上げて、血みどろのおっさんがいたらどうしよう。)
かなり躊躇する。
心霊の話は嫌いでは無いが、自分の身の上となってはそう楽に取れない。
そっと視線を腹の辺りに向ける。
見えたのは、白いシャツの裾とチェック柄のスカート。
(よかった、おっさんじゃない。)
血も付いてないので安心したのか、そのまま全身を見るように視界を広げて行く。
(って、このスカートうちの制服じゃ?)
毎日中学校で眺めているのと同じ柄だった。
顔が見える所まで視界が広がると、腹の上の少女と目が合った。
見覚えはあるがよく覚えていない。
(幽霊じゃ、ないのか?)
ならば、考えられる事は唯一つ。
「よ、夜這い!?」
「違います!」
即座に少女が反応した。
困ったように顔をしかめたかと思うと、少女は真直ぐ恵一を見下ろした。
「そ、その。」
「…なに?」
意を決したように、少女は口を開いた。
「小野瀬くん!生きてる時から好きでしたーっ!」
「…はい?」