生きてる時から好きだった、とは。
恵一が生きてる時ということか。
(いやいやいや、俺は死んだつもりはない。)
ならば、目の前の、というより腹の上の少女が、ということか。
「…え?あんた死んでんの?」
「はい、それはもうぽっくり。」
平然と答える少女。
「…えっと、幽霊?それともゾンビ?」
霊体か実体か、と訊きたかったのだが混乱の方が勝っていた。
「幽霊、だと思いますよ?壁抜けたし空飛べたし。」
「すげぇな。」
感嘆。幽霊って本当にいるんだ。
「いや待て、ならあんたは死んでる、て事になるな。」
「…始めに言った気がします。」
それもそうだ。恵一の記憶は定かでないが。
「えっと、すまん。俺はあんたの事を知らないんだが。」
「あ、はい。三年B組の宮田珠希(みやたたまき)と言います。」
恵一は三年A組。隣りのクラスのようだ。
「…えっと、いつ死んだんだ?」
「今日、正しくは昨日の放課後ですね。小野瀬くんに告白しよう、と後を尾けてたら軽トラが。」
「尾行はともかく、車に轢かれた?そんなの気付かなかったぞ。」
「いえ、軽トラが止まるの待ってたら小野瀬くんを見失って、気付いたら崖下に。」
「落ちたのか?大丈夫…じゃないな。死んでんだもんな。」
失言だった、と恵一は後から気付いたが珠希はニコニコと恵一を見ている。
「私を連れに来た死神の人にお願いしてとどまらせてもらいました。」
(死神なんて普通にいるのか。)
恵一は少々付いて行けなくなってきていた。何せ、深夜二時だ。眠気の方が大きいに決まっている。
「…その話はまた明日にして、寝さしてくんないか?」
「あ、そうですね。夜分に失礼しました。」
同級生にしては随分と礼儀の正しい珠希である。座っている位置は恵一の腹だが。
恵一は電気を消して、意外に興奮も無く眠りに就いた。
翌日。
(…変な夢を見た気がする。)
今日は土曜日。学校は休みなので暫く惰眠を貪ろうと寝返りを打つと、目の前に少女の顔が現れる。寝顔だ。
「おおぉぉぉ!?」
「あ、おはようございます小野瀬くん。」
「幽霊って寝るのか!?なんで同じベッドで寝てんだ!?ってか夢じゃなかったのか!?」
恵一、混乱の極みである。
「身寄りもない身ですのでどうぞよろしくです。」
「あ、いやこちらこそ…じゃなくて!」
六月の、良く晴れた朝だった。