真紅に染まった空に朱き影が空を切り裂き飛んでいた。
それは呪文のように呟いていた。
滅ビヨ…と。
アデルは炎を吐き出す事を止むことなく飛び続ける。
ニンゲン…我ヲ欺イタ…
我ヲ騙シタ…
許セヌ…
許セヌ…!
咆哮を高く揚げる。
アデルが通った後は既に草木一本生えていない…
…デル!
暴走意識の中に何者かの声が響く。
…アデル!止めるんだ!!
その声は耳からではなく、直接頭に響いている。
アデル、もう止めろ!こんなことしても何も変わりはしない!!
−貴様…何故、我ノ名ヲ…!?
俺だ!レオンだ!
−レ…オ…ン…
思い出したか!?アデル!
−レ…オン…レオ…ン、何故ダ…ソノ名ハ…
思い出そうとする度、アデルの頭が割れそうに痛んだ。
しかし、レオンという名は懐かしさと温かさを感じ取れた。
『レオン…』
朱き竜の動きが止まった。
それはいつだったか…
『竜』である自分の存在に人々の目が恐れと憎しみに変わったのは…
人々は自分を化け物と呼び、
悪しき魔物と蔑んだ…
ならば、よかろう…
そのように生きよう。
恐れ、害をもたらすならば…牙を剥くだけだ。
刃で裂いてこようならば、鈎爪で刻んでくれよう。
大砲を撃ってくるならば、
焼き尽くしてくれる。
だが、レオンと出会った時から一転してしまった。
この男は自分を必要としてくれた。
哀しみを振り払ってくれたのだ。
そして世界の終わりの時、この男…レオンを生かす為、受けた恩を返す為…自らを犠牲にした。
朱き竜は来た方角を引き返す。
だが、その目にはまだ狂気が映っていた。
−目障りだ!焼き殺してくれる!!
アデルは女神の塔へと引き返す。