恵一はとりあえず、現状の確認をすることにした。
目の前の珠希は幽霊。
珠希は恵一に惚れている。
死因は転落。
今日は土曜日。
「おぉ、土曜日だ。」
「そうですね、全国的にサタデーです。」
しばし、沈黙が続く。
「…土曜に何かあるんですか小野瀬くん?」
「いや、取り立てて何も無かった。」
とりあえず空腹を覚えていた恵一は食事にすることにした。
「ふむ、卵はこれで最後か。買い物に行かなくちゃな。」
冷蔵庫から卵二個を掴んで広くないキッチンに立つ。
「小野瀬くん、料理出来るんですか?」
「そりゃ、一人暮らしだし。」
恵一は一人実家を離れ、このワンルームに暮らしている。
「あ、宮田も食うか?オムレツ半分こにでもして?」
「あ、いらないですよ、お腹減りませんし。」
その言葉を聞いて、恵一は改めて認識する。
宮田珠希は幽霊であると。
「えっと、ごめん。」
恵一は調理もそこそこに珠希に頭を下げた。
「わぁ、やめてください、小野瀬くん何も悪くないです。」
珠希は恵一の腕を取り…取ろうと何度も掴み掛かるが一切触れる事は無い。
恵一としても、冷たくも温かくもない妙な感覚があるだけである。
「嘘!?昨日は上に乗れたのに!」
夜が明ければ触れる事すら出来ない。
「えい!えい!」
珠希はヤケクソ気味に腕を振る。
「えい!…あ、当たった。」
かと思えば、渾身の力を込めた腕は恵一の肩に思い切り当たった。
「いてぇ!超いてぇ!」
「わー、ごめんなさい!まだ感覚に慣れてなくて!」
「あーぁ、痣になってるし。」
手首を掴まれた跡が残る、などの話を思い出す。
「ううぅ、死んでお詫びを!」
「死ぬ事は詫びにならんし、大体宮田は死んでるだろ。」
あぁそうでした、と珠希は手を叩く。
とにかく、恵一は遅い朝食を済まし、この後について珠希と話す事にした。
「で?どうするつもりだ?我が家に取り憑くのか?」
「このアパートよりは小野瀬くんに憑きたい気分ですが。」
「やめぃ!」
恵一としては、幽霊とは言え女性の珠希と一緒、というのは避けたかった。しかし、幽霊とは言え女性を外に追い出すのも気がひける。
そんな時、恵一の携帯電話が着信を知らせた。