静寂が広がる病室の中で、心拍数を刻む機械音だけが鳴り響く…。
どれくらいの時が経過したのだろうか?
麻酔によって全身の自由は奪われ喋る事さえも覚束ない状態だ。許される情報と言えば、片目の視界に頼る以外になかった。
「ごきぶん如何ですか?」
マスクを着用した看護婦が覗きこみ、さっさと窓際の花を変えている。事実を知るのは、怖かった…。
目を閉じるたびに取り残された夫が炎に包まれ、最後まで潤んだ瞳で私を見つめながら消えてゆく…。
幻想は、幾度となく現れ安眠を奪った。
コンコン…コンコン!!
ノックする音と同時に、二人の中年男性が部屋に入室した。
差し出された黒い手帳によって、刑事が検証にやってきたのだと察しがついた。
そうなのだ。
いくら悲劇を背負ったとしても意思を持たない夫を連れ出し、無理心中を図った事に間違いない。殺人者としての罪を償わなければならないのだ。
「旦那さんのこと…残念です。お気持ち察します。」
刑事はそう告げると帽子を取り頭を下げた。
どうやら話の内容では不治の病で絶望した夫が、嫌がる私と心中を図ったと言うのだ。
「う〜う〜」
包帯に口を塞がれ、全身に麻酔が効いている事から思うように言葉が出ない。
すると何やら刑事の一人が懐から布に包まれた物を差し出してきた…それは… 続くvol.10に続く