今日も音楽室でトルコ行進曲を弾く。彼に気付いてもらうまで。
春に入学して彼を見た時は驚いた。名前も知らず、幼き日の記憶だけを頼りにずっと探していた。
ピアノを弾くのが嫌だったあの頃、彼がいなければ今は弾いていなかったと思う。
ベートーベンのトルコ行進曲。小さい頃この独特なリズムのせいでピアノの先生や親に叱られていた。どうして楽譜通りに弾けないんだと。まだずっと幼い私には違いがわからなくてよく泣いていた。誰も助けてくれる人はいない。ずっと一人だった。
その癖が直らないまま地区の大会に出た。
会場の外で泣いていた私に、同じ歳には見えない、立派な洋服に包まれた彼だけが、とても心地がいいって、この曲は僕には真似できないって言ってくれた。とても優しく暖かく感じた。
彼も私も参加したそのコンクールの一番は彼だった。でも彼は賞は僕がとったけど間違いなく一番は君だよって言ってくれた。
それだけなのに嬉しくて帰って先生や親に叱られようと気にしないで一番をとったみたいな笑顔だった。そしてもう一度会いたいと思うようになった。
その彼にこの高校で会えた。彼が私に気付いてくれるまで私は弾き続ける。彼との思い出の曲を。