何より嬉しかったのは幸一家族が実の娘のように自分に接してくれることだった。
幸せの感覚を、母が亡くなったどん底のあの日から少しずつ思い出してきていた。
「嘉代ちゃんさ、来たときより顔が明るくなってる」
ある夜、幸一の部屋で海を眺めていたとき嘉代は言われた。
「そう?嬉しい」
笑いかけると幸一は俯いた。
「どうしたの?」
「嘉代ちゃんさ……色っぽくなったよな」
急に言われ真っ赤になった顔を見られまいと嘉代は海を眺め直した。
「こーちゃんの方こそ、かっこよくなっちゃって。好きな人でもできましたか?」
冗談混じりで嘉代は聞いたが、冗談ではない答えが返ってきた。
「うん、好きな人がいる」
嘉代は胸の奥が締め付けられる痛みに襲われた。
なぜか体中冷や汗が流れている。
「へぇ…こ…ここのひと?」
「ううん」
この町に住んでた人じゃないなら限られてくる。
一緒に遊んだリサちゃんとか、チエちゃんとも遊んだ。
あとは…
突然背後から強い力で包まれるのを感じた。
「嘉代………だよ」
その時初めて幸一は名前だけで呼んでくれた。
なのに…………
嘉代は驚いて腕をふりほどき部屋へと戻っていった。