「そうですか。わかりました。事件が解決するまで、こちらに戻らないようでしたら、その間の家賃は結構ですよ。」
「すみません…ありがとうございます。」
彼は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ところで…誰かが、玄関を開けた…って言うのは、どういう…?」
大家は不安とも不思議とも言える表情で、私を覗きこむ。
私には何も言えなかった。あの出来事が現実だったのか?
それとも私の…頭が作り出した幻なのか…。
「いや、誰かが玄関のカギを開けて入って来た。って言うんですよ…勘違いだって、何度も言ってるんですが。」
彼は、また申し訳なさそうに言った。
大家は、顔を曇らせ手を唇につけ口を開いた。
「すみません…前の入居者以来、鍵を変えていないんですよ。本当に申し訳ない。」
「え。じゃぁ、前に住んでた人が鍵を開けて入ってきた可能性があるんですか!?」
私は、彼と大家の間に割って入った。
もしかしたら、本当にそうかもしれない…。
だとしたら…上の方の殺人事件も…。
「いえ。それは、あり得ません。……前の入居者の方は亡くなっているんです。」
え…一気に、汗が吹き出す。
この部屋で人が亡くなったの?
彼も同じ事を考えたのだろう。「ちょっと待ってくださいよ!この部屋で亡くなったんですか!?」
彼の剣幕に驚いたのか、大家は急いで弁解をする。
「いいえ。ご存知ですかねぇ?この近くに工事があるんですよ。ほら…あの、いつもうるさい機械音がする工事ですよ。」
頭の中にモヤが掛かった…。
「あれ…そう言えば、お前の言ってた男って…作業服姿の男だったよな?」
彼の言葉は、余り聞き取れなかった…。続く