同日一四時・シルミウム星系外縁・統合宇宙軍旗艦《スタニドルフ》
『…これは』
皇帝エタンも動揺は隠し切れなかった。
執務机に映じる2Dホロ画像には、たった四分の一日前に発生した惨劇が上空から俯瞰的に写されているのだ。
楕円型のスタジアムは半壊し、その内側は白煙・黒煙・紅蓮の群れが、凶々しく踊り狂う。
拡大すれば恐らく、地面に撒き散らされた血の池や肉片まで視認出来ただろう―\r
座りながら胸元でエタンは拳を握り震わせた。
ここまで来ると、悲哀を通り越して憤りすら込み揚がるのを感じる。
そして、相変わらず敵国の話なのに、こんな感情をまだ抱いたりする自分に、エタンは多少嫌悪や矛盾を感じたりもする―やはり私は一軍の総帥を務めるには優し過ぎるのだろうか?
だが、
『いやいや、全く酷過ぎますなあ、』
彼の最も信頼する将領の示す実に人間的な反応に、若き主君は救われる思いがした。
『やはり太子党でしょうか、この所業も?』
スコット=ウォールガードは玉座の隣に立ち、画像に見入りながら、率直な疑問を口にした。
『まだ…分かりません』
皇帝は軽弾みな断定を避けた。
『ですが…どの道これで、大勢は決しました』
大本営次長に彼は重々しくこれから起るべき事態を語り始めた。
『誰がやったにしろ、全ては我々帝国が画策したのだ―そうとでも言い張らなければ、彼等はもう空中分解する他有りません―つまり、防衛システムの構築と言う利点を棄てても、連合艦隊は決戦を求めて討って出て来ます』
そう、エタンには分かる。
もう闘うしかないのだ。
闘って勝利を収める以外に、何千もの同胞をジェノサイドされ怒り狂うパレオス星民の爆発を抑える事はもう不可能だろう。
『和平案も有りましたが、もう無理でしょう』
エタンは画像を換えた。
そこには、あの時事討論番組で熱弁を振るう少女の姿が有った。
『面白いアイデアでしたがね』
それは確かに一考の価値が有ったが、爆炎と共に相手の陣営の誰かが吹き飛ばしてしまった。
『こんな少女が外交役職を…不思議な国ですなあ、共和国宙邦とは』
妙な仕方で感心を示す腹心に、エタンは決意を告げた。
『スコット次長―御前会議を召集して下さい。始めましょう、我々の闘いを』
両軍主力の激突は、この瞬間に運命づけられたのだ。
《航宙機動部隊第二章》 END