珠希が同居する事になった翌日。日曜日。
恵一は床に敷いた布団の中で目を覚ます。
時刻は午前9時。
(まだ寝てていい時間だな。)
そう決めて、寝返りを打つと目の前に珠希の寝顔。
何というデジャヴ。
「だあぁぁぁ!?」
「答えろ、なんでわざわざ同じ布団で寝る?」
珠希をなんとか起こして正座させ、問詰める。
幽霊を起こすには声を掛け続けるしかない。恵一は初めに珠希の頭をすり抜けて枕を叩いた事で実感した。
「いや…それは、不可抗力というものでして。」
寝ぼけた様子で珠希は答える。
「幽霊が寝ぼけるな!ってか睡眠必要か!」
「三大欲求は生きてる証拠なんです!」
「何も食ってないだろが!」
幽霊になった時点で食欲は消えているのだろう。
「睡眠欲と、性欲は、生きてる時以上ですよ、ふぁ。」
欠伸を残し、珠希は横に倒れる。
「…性欲もかよ。」
寝ぼけているだけだとは思いながらも、恵一は微妙な心境なのだった。
「…目も覚めちまったし、飯でも食うか。」
「おはようございます恵一くんー。」
「もう夕方だぞ。」
珠希は昼を過ぎても起きず、日が傾いてしばらくしてから起き上がってきた。
「幽霊ってのは沢山寝るもんなのか?」
「いえ、夜更かししたので眠かっただけですよ。」
笑顔で告げる珠希。
「はぁ?そんな遅くまで何してたんだよ?」
恵一が問うと、珠希は頬を赤く染めて視線を逸して床に。
「待て、なんだ何してたんだ。きっちりと説明しろ。」
不穏な態度に疑いを持った恵一は珠希に詰め寄る。
「目の前で好きな男の子が寝てたら…不可抗力ですよ。」
「えぇ!?今朝のそれって、その事!?」
恵一は急に自分の貞操の危機を感じた。普通は逆であろうが。
「まだ慣れてないから布団めくったり、その他の事は大変でしたよー、触れなくて。」
「待った、その他でまとめてぼかすな。具体的に何したんだ。」
「…さて、夜のお散歩に。」
珠希は窓から外に出ようとする。わざわざ窓の位置に行かなくても霊体なら関係ないだろうが。
「待たんかい!」
恵一が浮遊する珠希の脚に手を伸ばすが案の定掴む事は出来ない。
「ではではー。」
手を振る珠希に、恵一は聞いてみた。
「…塩撒いといていいか?」
「それだけは!」
涙目で戻ってきた珠希の姿を見て恵一は勝ち誇った。