「…ん。」
恵一が窓から射した日の光によって目を覚ます。
珠希の幽霊が恵一の家に来てから三日目の朝。月曜日である。
「はーい、おはようございますですよ、恵一くん。」
霊体である体に慣れてきた珠希がシャッ、とカーテンを開ける。
「…俺以外の奴が見たらポルターガイストだよなぁ。」
「いえ、恵一くんから見てもそうでしょう、幽霊の仕業なんですし。」
なんだかんだで恵一は幽霊である珠希を受け入れていた。
きっとそれは幽霊という存在を信じていた恵一だから。珠希が幽霊らしくない、人間っぽさを持っていたから。
「あー、今日から学校か、準備しなきゃな。」
「私は準備できてますよ、ほら。」
確かに珠希は学校制服を着ている。それは最期がその格好だったからだろう。
「ずっとその格好だっただろ。」
「うーん、寝る時くらいは着替えたいんですけど着替えなんかないですしね。」
「そもそも普通の服でいいかすら不明だしな。」
着れたとしても服だけが浮いて動いてるように見えそうだ。
「まぁ汚れたりする訳じゃないですからいいですけど、気分的に。」
珠希もこういう点は女の子のようだ。
「ん?待てよ、準備できてる、てお前も来るつもりか?」
「反応かなり遅めですね。行きますよ。私も生前は学生ですから。」
「おばけにゃ試験も学校もないはずでは?」
半眼になって恵一をみる珠希。呆れた目、と言ったところか。
「…まぁとにかく、行きますよ。恵一くんと離れる気はないですし。」
「さらりと流すなよ、虚しいから。…大丈夫なのか?」
心配そうに恵一が珠希に近付く。手には学生鞄、既に身仕度も済んだ。
「なにがです?」
「お前幽霊なんだぞ。皆驚くと思うが。」
「大丈夫ですよぉ、恵一くん以外見えない、て聞いてますし。」
恵一は初日に聞いた、死神とやらの話を思い出す。
「まぁ買い物に外出た時は誰にも見えてなかったようだが。」
「見えても幽霊ってことで問題無いですって。」
首を捻って考える恵一だったが時間はあまり無かったようだ。
「ほら、遅刻しちゃいますよ。」
珠希が恵一の腕をしっかり掴む。物に触れるくらいは問題無く出来ている。だが、
「力入れるな!痣出来るだろ!」
みるみるうちに青く手形が浮いてくる自分の腕を眺めながら、恵一は溜め息を吐いた。