「あの運転手の子、結構イケてたでしょ?嘉代ちゃん興味ない?」
昨日、幸一とあんなことがあったせいで嘉代は敏感になっていた。
「あ、ありませんよ!!」
美早紀はきょとんとした目で部屋へと上がっていく嘉代を見つめていた。
嘉代が階段を上がりきって、顔を上げると目の前に幸一が居た。
「あ…!きのうは、ごめん」
2人の声が同時に響いた。
間をおいて2人は同時に笑った。
「じゃあ、俺春休み中は親父の手伝い言いつけられてるから」
お互いにそのまま笑顔で別れたので、その場良かった。
だがたちまち嘉代はため息をついて真顔になった。
確かに今の場は凌げた。しかし、不本意だった。
嘉代は窓から外を眺めた。
幸一が海岸まで降りていく最中だった。しばらくして見えなくなった。
「ホント…………バカなことしたな。私」
こんな馬鹿な話はないと、嘉代は自分を責めた。
そして今日の夜、自分からちゃんと言おうと心に決めたのだった。
その日の夕食は、表情を保つのに精一杯だった。
風呂から上がってきた幸一を、嘉代は階段の上で待っていた。
「こーちゃん」
どうしても真顔になれず、苦笑いしてしまった。