雲が夕日に染まり始めた頃、西の国の戦士達は洞穴に隠れ、震えながら夜を過ごすのだという。夜が怖いわけではない、狼が怖いわけでもない。彼らが恐れているのは、たった一匹のトカゲ。
東の国のサムライ達は、毎晩のように酒を飲みながらこの話をしては、腹を抱えて笑った。
「西の奴らはとんだ臆病者だな!」
「そのトカゲ、さぞかし恐ろしい姿をしているんだろう!ガハハハ!」
国一番の剣豪ゴウサイの息子コジロウ。コジロウだけは、トカゲの正体を知っていた。 大人に言っても信じて貰えないが、昔、西の国に剣の修行に行ったときのこと、山奥の滝壺で剣を振っていると、上空を、翼の生えたトカゲが飛んでいるのを目撃したのだ。
父親は鳥だと言うが、あれは確かにトカゲだ。西の戦士はあれを恐れているんだ。
コジロウは、いつか西の国へ行ってあのトカゲを捕まえてきてやろうと考えていた。それにはまだ修行が必要だが…
しかし、それからコジロウが西の国へ行くことはなかった。行く必要が無くなったからだ。
ある日、サムライ達の村に、一人の男が訪れた。