ヤス#61
ヤスは純子の膝枕で横になったまま、目を閉じて母の言葉に耳を傾けた。
純子は賢三と森一がヤスを載せた小船を曳いて島に戻ってきた日の事を淡々と話した。
瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。
一滴の涙となってヤスの頬へて落ちていった。
ヤスはそれでも黙って純子の話を聞いていた。
「それでね…子を授かる事ができないでいた私たちはあなたを育てる事にしたの…でも、いつか…真実は話さなければと思っていたわ…何があろうと真実だけは話さなければと…ヤス…ヤスと私は血こそ繋がっていないけど…血よりも濃い絆で結ばれている…そうでしょう?」
「母さん」
「何?ヤス…」
「俺は…母さんの子だよ」
「ああ…ヤス…ありがとう…ありがとう…ヤス」
純子は溢れる涙を手の甲で拭い取りながら笑顔を浮かべた。
「母さんね…」
「うん…」
「ヤスの事…大好きよ」「うん…」
「ほっぺにチュウ…してもいい?」
「母さん、からかわないでよ。真剣に聞いていたのに…」
「ヤス…からかってなんかいないわよ。私は真剣よ…ヤスの事が本当に好きなの」