天使はきれいな羽をもって天から降りて来た。
けれど天使は汚れた人間界では生きていけない。
純白の羽はいつしか折れ、傷つき、ぼろぼろになってしまったんだ…。
第1話〜舞い降りた天使〜
「それじゃ…サキちゃん…だっけ?ありがと。またね」
「うん。バイバイ。」
50代後半のオヤジが少女に手を振りそそくさと立ち去っていった。
少女はその背中を見つめる。
「…サヤだょ。」
その背中に向かって小さくつぶやく。
オヤジの名前は知らない。
オヤジもこっちの名前なんて興味ない。
あるのは体だけ。
サヤの手にはオヤジから渡されたお金があった。
援助交際。
悪いことなんて思ってない。
需要があるから供給する。
それだけ。
この日もサヤはいつものようにお金を服のポケットに入れて夜の街を歩く。
まわりからの目線。
サヤはどこにいても目を引く存在だった。
外国人の父から受け継いだ青い瞳。母親ゆずりの漆黒の黒髪と際立つ美貌。
小さい頃はよく青い瞳のせいでいじめられた。
中学に上がった頃から、男子からは羨望の、女子からは嫉妬の目を向けられた。
高校に入ってからはそれがさらに強くなっていった。
昔はこの青い目が大っ嫌いで、親を恨んでた。
『どうしてあたしはみんなと違うの?』
ずっとそう思っていた。
でも今は感謝してる。
この青い瞳も、美貌も、いい『商品』になってる。
サヤはいつも仲間がいるバーへ向かった。
階段を下がり、地下の扉をくぐると早いテンポの洋楽がサヤを迎える。
「サヤ!!」
店の奥の席に陣取っていた男女がサヤを気付いて声をかけてきた。
「エンコー帰り?」
「うん。今日いっぱいもらっちゃった。」
そう言ってポケットから札束を取り出して見せる。
「すっげ…10万以上あんじゃね?」
少年が目を輝かせて札束を見つめる。
「いぃよねぇ…サヤはマジ美人だからオヤジも喜んで金だすしさぁ。」
髪を金に染めた少女が溜め息をつく。
「生活かかってますからぁ(笑)」
サヤはそう言っていたずらっぽくほほ笑む。
その表情は大人びたサヤが少女に見える瞬間だった。
「いいよなぁ。一人暮らし。」
「まぁ気楽だけどさ、いろいろめんどいよ。」
サヤはもともと不仲だった両親が離婚するのをきっかけに高校入学と同時に一人暮らしを始めた。
同時に援助交際も始めた。
サヤには生活費や家賃などを払うためにお金が必要だったのだ。