続2 両手 掴み取る何か

 2007-06-08投稿
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明らかに刑事とわかる男は周りに誰もいないかの様にベッド脇の叔母らしき女性には目もくれず右手でシッシッと虫を追い払うみたいな仕草をした。
今まで迷い猫だった警官がロボットみたいに叔母らしき女性を廊下へ誘う。
「でも」抵抗しながらもつまみ出された。
刑事はどうせ尋問なんだろうと斜に構えたあたしの目をじっと見ながら筋肉の塊みたいな手をあげた。
また殴られるかと反射的に顔を背けたあたしは刑事の予想もしない行動に怯んだ。
「辛かったな」と頭を撫でたのだ。
拳は喰らってもどこかで産まれてこのかた、誰からもされたことのない初めての経験にあたしは完全に自分を失った。
心より深い体の奥底で熱いグニャリとしたものが動めいて呼吸が荒くなるのが分かる。
その熱いものは痺れと共に喉から急激に込みあげてきた。
歯をくいしばり耐えてはみたが次の刑事の言葉があたしを壊した。
「誰も助けてくれなかったか、我慢したんだな」
たぶん刑事にとっては何気無い一言だったに違いない。彼と言わず誰もが普段の生活で当たり前に遣う優しさだったのだろう。
でもあたしはその一言で完全に壊れ、病室という事も忘れこの世でたったひとり廃墟の真ん中に居るように大声で泣いた。



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