僕、ミケこと三池ハルキには、大好きな、憧れのヒトがいる。
彼女の名前は、神山イバラ。
まさにイバラの様なとげとげしくも愛しい、綺麗なヒトだ。
彼女とは僕のバイト先の喫茶店で三、四年前に出逢って
それから僕らは色んな“繋がり”を持って来たけど…
結局僕は『ミケ』以上になれない。
でも
僕はそれでもいいのかなあと思う。
僕が大好きな彼女の
大好きな顔は
僕じゃない、もう一人の『猫』を想ってる時の顔だから。
* * *
「ん…」
瞼を通り抜ける白い光り。
鼻をかすめる、バラの甘い香り。
肌を刺激する、温いベッド。
こんなにも不機嫌で、最高に清々しい朝は、隣に“誰か”がいる日である。
「おはよ。タマ」
彼が声の方に目を開くと、愛らしく嫌らしい笑みを浮かべたイバラいた。
黒いキャミソールの隙間からのぞく白くグラマラスな肢体を、『タマ』こと玉峰ヒロヒトは、じっと見つめてしまった。
彼はいつだって“おあずけ”状態であった。
「なによ、いっちょまえに欲情する気?
それも朝から。」
イバラは呆れた笑みをタマに向ける。
タマも少しだけ、そんな彼女に呆れる。
「…俺達って、付き合ってるんだよな?」
「え?…あぁ」
きょとんとした顔で、彼を見つめるイバラ。
その表情が可愛くて、つい怯んでしまう。
それでも言いたい事を言えずにはいられないタマは…
「…セ…ックス、…しねぇの?」
やっとそう告げた。
イバラはおもむろにタマに近づき、股間に手を当てる。
「ちょ…?!」小さく身じろぎするタマ。
その様子を満足げに見上げ、彼女は言った。
「知ってる?
生殖機能のある『三毛猫』って、貴重なの。」
何の事かさっぱりなタマは、下半身の刺激に耐えるのに精一杯だった。
(「耐える必要もないのに…は…反射か…?」)
付き合って二年程の二人。
彼らは一度も、肉体関係を持った事がない。
「しよう」とタマが誘っても、彼女はいつもこう言うのだ。
「アタシ、価値あるオトコとしか寝ないんだ。」
二年程前、タマはイバラがミケと関係を持っている事も知りながら…否、持ったままでいいから付き合ってくれと言った。
そうして繋ぎ止めれば、少なくとも、彼氏でもただの友達でもないミケよりは、優位に立てる。
ミケとタマは昔から、良き親友であり
“良き”ライバルであった。