らぶふぁんとむ8

あこん  2007-06-09投稿
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月曜の朝。自分の通う中学校に向かう恵一。
特におかしな所は無い。あるモノを除いては。
「俺の後ろをふわふわと漂うなよ。気になるだろ。」
「気にしちゃダメです。私は恵一くん以外からは見えないんですから、独り言を言ってると誤解されますよ?」
珠希は両手を前でぶらりと下げて、所謂幽霊のポーズを作る。
「…なら、気になる行動を取るな、って言ってるそばから!」
振り返れば、珠希は道端の野良猫と睨み合っていた。猫には姿が見えるらしい。
「止めないでください!これは私の一世一代の」
「ほれ、さっさと行け。」
珠希の声を無視して猫を追い払う恵一。
「…。」
「なんだよ?」
不満そうに口を尖らせた珠希はそこに立ち尽くす。
「いーえー。なんでもー。」
珠希は不貞腐れていた。
(猫とのケンカを止められたぐらいで何が不満なんだか。)
そんな時、恵一の肩を叩く手が。
「おはよう、恵一。」
友人、日村孝太である。
「孝太か、はよ。」
「珍しいね、まだここにいるなんて。」
遅れてる理由は明らかに珠希である。
当の珠希は恵一の背中や脇腹を無意味につついている。
「ん?どうしたのさ、手を振り回したりして。」
「虫だ。」
即答する恵一。珠希はムッと顔をしかめる。
「私、先に行ってますよ。」
珠希が恵一にしか聞こえない声で言う。
「あ、おい。」
「どうしたの?恵一?」
無論、孝太に珠希の声は聞こえてないし、姿も見えていないので恵一の言動は不審なものだった。
何もない中空に呼び掛けたのだから。
「あ、いや。空が、青い、と。」
「曇ってるよ?」
恵一、かなり迂闊である。
「あー、悪い孝太。俺先行く。」
「ん、なんか用事?」
「そんなとこ。」
恵一は孝太に手を振り走り出す。
先に行っている、と言うことなら珠希は学校にいるだろう。
恵一の脳裏に去り際の寂しそうな表情が浮かぶ。
(あー、くそ、何を気にしてるんだ俺は。)
校内に入り、ひとまず鞄を置くために自分の教室へ入る。
思い切りコケた。入口近くの机二つほど巻込んで。
「ちょ、小野瀬くん大丈夫?」
「貧血でも起こしたか?」
心配するクラスメイトに手を振り、恵一は顔を上げた。
恵一の席には、ちょこんと宮田珠希が座っている。



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