誠は魚港の近くの一件の錆びれた居酒屋へと入って行った。
「親父さん。血を一本頼む。」
カウンターの年老いた男はヘイと返事をすると、ラベルに『珍味スッポンの生き血』と書かれたビンとワイングラスを持って来た。
「仕事は終わったのか?」
「当たり前だ。早く終わり過ぎて時間が余っちまってな。」
そう余裕の表情で言うと誠はワイングラスに生き血を注いで一気飲みした。
「『統一戦線』の奴等も大胆に動いたみたいだな。
一昨日喧も倒鬼衆に捕まったみたいだし主力が二人も失ってあっちは大変だろうよ。」
年老いた男はそう言うとつまみのゲソを差し出した。
「主力っても二人共下から二番目だからな。対した被害は無いだろうよ。
そういえば迎えの船はいつ就くんだ?」
差し出されたゲソを食いながら誠は年老いた男に聞く。
「9時20分。」
「なんだよ。まだ1時間もあるのかよ!」
誠はワイングラスの血を飲んで悪態をつく。
「お前に新しい任務が来たぞ。憐華様からの直令だ。」
「またかよ!?最近休みが無いなぁー。
で、内容は?」
「横浜で張り込みだとよ…」
それを聞いた誠は唖然とした。
「それ本当に憐華様からの…?」
年老いた男は黙って頷づく。
「俺にあいつを殺せって言ってる様なもんじゃねえか…」
誠の顔に氷の様に冷たい憎しみの表情が浮かぶ。
「ただし何もするなだとよ。」
「……」
年老いた男の言葉に誠は無表情な顔で黙り固まった。
「ご馳走さま。」
誠は立ち上がり、代金をカウンターに置いた。
「何処へ行くんだ?」
「ちょっと散歩しに。」
そう言うと誠は店の暖簾をくぐって外へと出て行った。