ヤス#65
「母さん。まだ、爺ちゃんの船が戻らないんだ。男衆が岸から捜してくれているけど、この嵐だ…また出てくるけど、大丈夫?」
「ええ。ヤス。私の事は心配いらないから…気をつけていきなさい」
ヤスはキビスを返して出て行った。
雨足は一向に弱まらない。純子は不安が現実になっていきような気がして怖くなった。
罰が当たったのかもしれないと思った。
シットの怒りを買ったのだろうか、とも思う。だが、ヤスを愛する気持ちは益々大きくなっていく一方だった。純子は、体を折るようにしてすすり泣いた。
雨足が弱くなった。
引き戸が開く音がして、ヤスが戻ってきた。
「母さん…」
「あ、ヤス…どうだった?」
「母さん…気をしっかり持って聞くんだよ」
純子はその言葉で全てがわかった。
「ああ…駄目だったのね…」
「うん…船が…爺ちゃんの船が、波戸場の向こうに打ち上げられていた」
「ああ…なんという事なの…なんという…うううっ…」
ヤスはカッパを脱ぐと、純子を抱きしめた。純子は細い肩を震わせながら、何時までも泣いていた。