「他のマーチやベートーベンも、なんていうか、その独特な感じ、なのかな?」
おもむろに開けられたドアから小さい頃から夢見てた彼が入ってきた。私は彼の顔に魅入ってしまう。もう何も考えれない。
「僕もピアノを小さい時からやってるんだ。17年生きてきて、ピアノは今年で15年目になるけど、こんなに上手なトルコ行進曲を初めて聞いたよ」
初めて?私は驚いた。彼は私の、私のリズムを覚えていたわけじゃないんだ。彼の事を忘れた日はなかったのに。知ってるわ。あなたがピアノをやっていたことなんて。
「知ってる…」
「えっ?」
彼はよく聞いてなかったみたい。緊張してるのは私だけなのかな。落ち込みぎみにうつむいてしまう。駄目だわ。何か悔しい、私を思い出してくれないの。
「ピアノ。やってたこと、知ってるわ」
「どうして?なんで知ってるの?」
どうして?まだ思い出さないのね。あなたに言われた言葉だけを頼りに生きてきたというのに。
「このリズムは、よほど勘がいいか、ピアノ経験者しかわからないの」
私は悔しいのか過去の事は黙っていた。私は夕焼けが眩しい窓へと近づいていった。
続く