「ふと思いました。」
恵一が野菜炒めを食べていると、食卓に一緒に座っていた珠希が突然声を上げた。
「…何を。」
恵一はアサリの味噌汁を啜りながら珠希を視線のみで見上げる。
「私って写真とか大丈夫なんでしょうか?」
「…写真?」
問いの意味が理解出来ず、恵一は椀を置く。
「ほら、私って鏡に映るじゃないですか。」
珠希が窓ガラスを見れば、そこには珠希の姿が闇にぼんやりと映る。
「あぁ、よく言うな。幽霊は鏡や写真に姿を映す、とかは。」
ようやく珠希の言いたい事がわかった恵一は再び野菜炒めに箸を伸ばす。
「そうです。もし万が一学級写真とかスナップに私が写り込んでたら大騒ぎですよ。」
「まぁ無いけどな、6月にそんなイベントは。」
六畳一間の恵一の部屋を沈黙が包む。
恵一は無言で夕食を終え、食器を流しに運ぶ。
「恵一くんはひどい!」
「何がだ!?」
騒がしく二人の夜は更けていく。
「さて、寝るか。」
「はーい。」
恵一がベッドに向かえば珠希もついていく。
「…。」
無言で珠希の笑顔を見つめる恵一。
「?」
首を傾げながらもにこにこしている珠希。
「…どうしても一緒に?」
「はい、寝ます。」
即答する。
(…まぁ、幽霊だしいいか?)
よくわからない理屈で恵一は無理矢理納得し、ベッドの端に横になった。
「お邪魔しまーす。」
恵一の背中を、すーっ、と冷たい風が撫でるような感触が走る。一瞬のことだが。
「ぴと。」
「…なんの音だそれは。」
「抱き付いた音です。」
残念ながら恵一にその感触は伝わらない。
冷たくも温かくもない何かがある、としか認識出来ないでいる。
「…寝るぞ。」
恵一は溜め息と共に、照明を消した。
「…ん。」
恵一は部屋が明るくなった事に気付いて目を覚ます。
時計を見れば五時を過ぎた頃。早朝だ。
(早く起き過ぎたな。)
仰向けになれば、目の前に珠希の顔。
つまりは、恵一の上に覆い被さっている状態なのだろう。
「お、おおぉぉぉ!?」
「わ、わぁ!?」
叫ぶ恵一に驚いて珠希も叫ぶ。
「やっぱり夜這いか!?それが目的だったのか!?」
「望まない事もないけど違います!」
また、二人の騒がしい一日が始まる。
火曜日。珠希との生活四日目の始まりである。