ヤス#66
【アイノツブテ】
翌日は、昨夜の嵐が嘘のように晴れ渡った。水平線が鮮明に見える。島の人間は、嵐で壊された家屋の修理や、漁船の手入れで忙しかった。そんな中、島の大人達がてわけして賢三と森一を沿岸に沿って捜してくれたが効果はなかった。
ヤスには、それは気休めにしか思えなかった。凄まじい嵐だった。遺体が見つかるはずがないと思った。
母は床に臥したままで、全く目が見えなくなっていた。
昨日の昼までは幸せな時間だった。母に抱かれた事もその一つだ。ヤスは後悔などしていなかった。むしろ、思いを遂げてられた事を喜んでいた。
だか、一夜明けて、この惨状はどうだろう。父と祖父を同時に亡くした。船も無い。母は目が見えなくなってしまった。
だか、ヤスは悲しんでいる暇は無かった。
翌日、漁協に相談に行った。
早く葬式を挙げて、仕事をしなくてはならない。
ヤスはまだ中学生だから学校に行く必要もあった。漁協の長である中村十郎がヤスの面倒を見てくれた。
誰もが手を貸してくれた。
朝早くの網の取り込みと、夕方からの漁協の雑用。それに、網の修理などの仕事を回してもらった。