ヤス#67
親子二人で食べていくのもやっとの報酬だが、贅沢は言ってはいられなかった。
遺体の無いまま葬式が挙げられ、初七日も終わった。幾らかの香典が集まったお蔭で、しばらくは食べていけそうだった。貧困には慣れている。母と二人だと言う事が、不思議とエネルギーになった。ヤスにとって気がかりな事は、母が日に日に衰弱していっている事だった。
隣の島から医者に来て診てもらったが、原因が分からないと首を傾げるだけだった。
「ヤス…ヤス…」
「あ、いるよ。母さん、どうかした?オシッコ?」
「ううん…ゴメンね…ヤスにこんな思いさせちゃって」
「母さん、分かって無いなぁ。俺は凄く幸せだよ。母さんが元気になれば、もっと幸せになるよ」
「ヤスは、どうしてそんなに優しいの?」
「母さんを愛しているから…」
「ああ…ヤス、愛しているわ…ここに来て、顔を触らせてくれない?」
「いいよ、母さん」
純子の目は、開いてはいるが、瞳が動かない。目尻から、涙がひと雫流れ落ちた。落ちてシーツに染みこんだ。小さな粒が光っている。ヤスは首を傾けながら、その粒を拾った。良く見ると、もう片方の目から流れ出た涙の染みの跡にも、その光る粒が落ちていた。