彩との別れの朝は冷たい雨が降っていた。
由香にとって、彩は高校生になって初めての友だち。
話が合ってすぐに仲良くなった。
まさか彩が自分の命を自ら絶って、こんな別れが来るなんて…。
どうして? なんて言えなかった。
由香は彩が苦しんでいるのを見ていたから。
ただ、見ていたから…
焼香を終えた由香が傘をさして雨の中を帰ろうとしていた時だった。
綾の家の前で傘もささず、じっとこちらを見ている男がいた。
銀色の髪にコバルトの瞳。高くスラッと伸びた背と長い足。
端正な顔立ち。
由香は男の今まで見たことのない風貌にゾクッとさえした。
ゆるいパーマがかかったような銀色の細い髪に雨の雫が絡んでは光の粒となって落ちる。
なんて…美しい人。
彩の知り合いかな…?
「中に入らないんですか?」
由香はやっとそう言った。
「匂いがする…」
一言、言うと彼は由香の傘の中に入っていた。彼の動く気配を全く感じなかった由香は、突然彼が近くに居て「ひゃっ」と声を上げる。
由香の手から傘が離れてゆっくり地面に落ちた。
彼は姿を消していた。
由香は幻を見たのだろうか?
でも、由香は予感していた。また彼に遭うと。