「そういえば恵一。」
一緒に登校する事になった孝太が思い出したように口を開く。
「宮田さんの話、覚えてる?」
「そりゃ、ついこないだの事だし。昨日黙祷させられたし。」
話題の中心である珠希は道行く野良猫に喧嘩を売っているが。
「どうもね、ただ落ちただけじゃないかもしれないんだって。」
「はぁ?気付いたら落ちてたんだろ?」
「…宮田さんもそこまで抜けた人じゃないと思うけど。」
事情を知らない者が聞けば勘違いをする言い回しをした恵一に、事情を知らない孝太は軽蔑の視線を送る。
(まずったな。)
「…ともかくね、不審な点があるんだって。」
「不審な点?」
素直に聞くことにした。
「うん、まず、宮田さんの家って逆方向なんだってさ。」
「あぁ。」
恵一の後を追っていたのだからおかしな点はない。
「で彼女の部屋ね。ガスの元栓が締まってたり、ブレーカーも落とされてたって。」
「悪い孝太。忘れ物思い出したから先行っててくれ。」
孝太を先に行かせ、恵一は猫との睨み合いを続ける珠希に近付く。
「タマ!この馬鹿幽霊!なにこんがらがる事してんだよ!?」
「ふぇえ!?いきなりなんですかー!?」
「ガスと電気!」
「あぁ、それですか?恵一くんの家行く前にやりました。長いこと留守にしますし。ちなみに荷物も一纏めにしました。処理がしやすいように。」
「永遠に留守にするんだよ!死んだ翌日に身辺整理してどうする!?」
恵一は両手をわなわなと震わせる。
部屋が整えられて、家主が死んでいれば自殺を疑われても不思議ではない。
「だってガス代と電気代…。」
「死んだ人間が金銭の問題を気にしてどうする!?」
「生ゴミも腐っちゃいますし。」
「大家に任せとけ!」
恵一は朝の住宅街で叫ぶ。
「いいから学校行きましょうよー。」
「…よくない気がするが。事件として扱われたらどうすんだよ。」
背中を押す珠希を軽く睨む恵一。
「いいじゃないですか。片思いの相手にフられたから飛び降りた、て方が皆さん納得するでしょうし。」
「俺が悪人みたいじゃねぇか!」
今日一番の叫びを恵一はあげた。
学校に着いて授業が始まれば、前日の様に恵一と珠希は筆談をしていた。
『今夜のばんごはんは?』
『お前食わないだろ』
恵一の机の上を、一本のペンが一人でに動くのを気にした者はいなかった。