ヤス#68
ヤスは2つの粒を取り上げると紙に包んでポケットにしまった。母の顔の前に自分の顔を近づけると、母の手を取った。
「ああ…ヤス。もうあなたの顔を見られないのがつらいわ…」
「見えなくても、分かるだろう?ほら、触って」
純子はヤスの顔を確かめるように、長い時間触っていた。ヤスが添い寝をしてやると静かな寝息を立て始めた。
ヤスは家を出た。小さな懐中電気を一つだけ持って、夜の山道を御床島に向かった。今夜は大潮だ。海が割れる。
ヤスは御床島に渡ると、大声でサトリの名を呼んだ。
「サトリ!サトリよ!出てきてくれーっ!」
辺りは波の音がするだけで、島は静まりかえっている。
「サトリ!サトリよ!いるのだろう!頼むから出て来てくれーっ!」
「ほいっ。大変じゃったのぉ」
サトリはいつしかヤスの足元に座っていた。
「ああ…そこに居ましたか」
「さっきから居たわい」「それは失礼をしました」
「ヤスは最近、言葉つかいもうまくなったな。ふおっ、ふおっ、ふおっ」
「サトリ、これを見てくれないか?」
ヤスは、紙に包んだ小さく光る粒をサトリに見せた。
「こ、これは!」
「今日、母さんの涙から出てきたんだ」