「気にしすぎ…だよね。」
由香は陸上部の朝練の為に早めに家を出た。
朝のひっそりした住宅街に朝靄が立ち込めて白く霞んでいる。
学校に着くと他の部員の姿はまだ見当たらなかった。更衣室で着替えて鏡を覗いた由香は驚愕する。
そこに彩がいた。
あの匂いが強くなる。
かすかだった匂いは、
今はっきり存在を現していた。
花の香りに似ているようで、水の中に棲む生物のような匂い…。
その強い匂いに由香の意識が宙に浮かぶように揺れた。
「あ…や…?」
声を絞るように由香が言う間に由香の腕は彩に掴まれていた。
彩のほっそりした白い手が鏡の中から伸び出ていたのだ。
彩は何も言わず、由香の腕を鏡の奥に引きずり込んで行く。
由香の腕を驚くような強さで掴む彩の顔は憎しみと怒りで、醜く歪んでいた。
「あぁ…彩…やめ…て…」由香の身体はみるみるうちに鏡の中へ入ってゆく…。
由香が力を入れて彩の手を振りほどこうとしても彩の腕はピクリとも動かなかった。
「彩…あたしが憎いのね?」
由香は涙を流した。
由香の身体は既に鏡に半分以上のみ込まれていた。