航宙機動部隊第三章・4

まっかつ  2007-06-14投稿
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そして同日二三時・最外縁征討軍旗艦《D=カーネギー》号―\r
失意にまみれた帰還を果たした共和国宙邦・国家監察官テンペ=ホイフェ=クダグニンは、セキュリティチェツクもそこそこに自分達の住処へと戻って行った。
やや長めのフライトとは言え、労力としては育ち盛りの肉体からすれば酷使とは程遠い筈なのだが、粘性の濃すぎる後味の悪い心理的疲労感が彼女の脚と気持を容赦なく蝕み続けていた。
それでもようやく白亜の漆喰を衝立代わりに姿をのぞかせる馴染みの茅葺きを見掛けると、沸き上がる安堵が少しは彼女の胸を軽くしはした。
だが、同時に二倍に増やされた憲兵の姿も見せ付けられて、いよいよ思い知らされたのだ―ここも既にして戦場と化してしまったのだと。
彼等と敬礼を交しながら、自分の手でテンペは木製の門扉を押した。
鍵をしていないそれは、軽く軋みを立てながらすぐ開いたが、そこに居るべき同胞も勿体振らずにやや離れた玉砂利の上に立っていたが―彼の見せる表情からは快活さも体温すらも消え失せていた。
リク=ウル=カルンダハラ観戦武官首席は、横向けに立ち、庭の向こうの松の群を視覚上の非難所代わりに、こっちに顔すら見せてはくれなかった。
『期待に…答えれずに…』
喉と両目に込み上がる何かに少女は声を震わせた。
『お前が悪い訳じゃないさ…充分務めは果たしたさ…そんな言い方すんなよ』
慰めにしては吐き棄てる言い振りは、冷たい何て物じゃなかった。
確かに普段から皮肉・下品・粗暴を極めた口の悪さの持ち主ではあったが、こんな少年の姿をテンペは見た事が無かった。
『でも…これからが…有るわ!』
少女の示す必死を、観戦武官は嘲笑したりはしなかった。
『ああそうだな…だが、もう良いんだ。俺達はな』
したくもない緑葉観賞を止めようとしないままに、彼の放った台詞はより氷点下の鋭さで、少女の心に突き刺さった。
『…えっ?』
『荷物をまとめろ。中央域に還るぞ。ここの状況はもう、俺達の力ではどうにも出来ないまでになってしまっている』
か細く問い返す国家監察官に、少年は決意を告げた。
『もう良いんだ…これ以上は。元々無理なんだよ。年端の行かない俺達何かじゃ…お前も解っている筈だ…解っていて認めたく無いんだろ?だが、大の大人でもあの有り様だ…』

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