何もかも無くしてしまった…。
そんな私にも時間は平等に配分される。限りなく持て余す、お金と時の中…足りない物は、生きる気力だけだった。
そう…。
夫の残した財産の贈与と、受理された保険金を合わせ、数十億もの遺産を手にしたが…決して心が満たされる事はなかった。
大きな傷を心と体に刻み込んだまま、この暗い地下室で息をひとめ、来るべき日(死)を待ちわびてカレンダーを捲るという…。
「どうにかならないのですか?大金を注ぎ込んで現代医療を駆使してでも…その…」
言いかけて止めた。
きっと無残に刻まれた火傷も、亡くなった旦那との出来事も、全て背負い記憶の中で生きてゆくのだろう。
いや…生かされているのかもしれない…。
「あなたにとって幸せとは何?」
婦人はゆっくりと真向かいのソファーに腰を下ろすと、厳しい表情で尋ねてきた。
しばし沈黙が続く中、今までの生き様が走馬灯の様にグルグル頭の中を巡っていた。
俺は大切な感情が欠落していたのだ。
誰かの為に自分を犠牲にしたり、無性の愛情を注ぎ込んだりする事など全くなく、自分本位で過ごしてきた。
それは、お金という魔物に魂を奪われ…プライドを捨てて…。
「覚えているかしら?」
そう言うと額に入った写真立てを差し出してきた…。vol.12に続く