ヤス#72
純子はしっかりと首をたてに振った。
黒髪が全て剃り落とされ、尼のようになった。
ヤスは純子の体を洗い流してやると、塩で清めた。風呂から上がるとネマキを着せて布団に寝かせた。
ヤスは再び風呂場に行くと、己の毛を全て剃りおとした。塩を擦り込み、体を清めた。
その夜は純子を守る為に竹刀を抱いて眠った。
翌日の午後、一目をさけるようにして純子をリヤカーに乗せ、ハヤトと一緒に轢いて島の裏手を目指した。
御床島の対岸に着いた。だが、海が割れていない。あと一時間ほどかかりそうだった。
「いよいよね。ヤス」
「うん。大丈夫。必ず守ってやるから」
「ふふっ。ヤスは頼もしいわね。ヤスを育てて良かったわ。いい男になったのね…」
「ハハハ。母さんの子だよ」
ハヤトも少々興奮ぎみのようだった。
「ハヤト。お前は一番の子分だな」
「ウワンッ!ワン!
海が割れ始めた。
ヤスは純子を背中に背負った。純子も力を振り絞ってヤスの背中にしがみついた。
岩の合間を縫って御床島に渡っていく。
風が吹き出した。遠くに白波が立ちはじめている。不味い。急がないとシットがやって来るようだ。
ようやく、御床島についた。