「…。」
珠希はジト目で恵一を見続ける。
給食を食べる恵一の正面に浮いて、珠希は恵一を見続ける。
「…。」
珠希は、ただひたすら不満そうに恵一を見続ける。
発端は朝の登校時間。
「さぁ恵一くん、急がないと遅刻ですよ。」
「原因は、お前が、俺の上に、乗ってた事だがな!」
珠希が睡眠中に上に乗ると、どういう訳か金縛りに遭うらしい。
ふわふわと浮遊する珠希に対し、恵一は自分の足で走っているために息も絶え絶えだ。
恵一が罵りの言葉を考えながら珠希を睨み上げた時、それは起きた。
ドスンッ。
恵一は腹に柔らかな衝撃を覚えて立ち止まる。目の前には小さな体格の少女が倒れていた。
「あーぁ、ちゃんと前を見ないから。」
うるせぇ、と胸の中で毒づき、恵一は少女に声を掛ける。
「わ、悪い、大丈夫か?」
「…え?」
どうにも反応が鈍い。
「いや、大丈夫?」
「…あぁ、うん。」
恵一が差出した手に掴まって少女は立ち上がった。
「えっと、すまん。俺の前方不注意だ。」
頭を下げる恵一。珠希が後ろで、うんうんと頷いているのが気に食わないが。
「…いい。私もぼぅっとしてた。」
無感情な声で続ける少女。
「…だから気にしないで、小野瀬くん。」
薄く笑って、少女は走り出した。
そして遅刻しないように学校に着けば、少女が同じクラスだった事に気付いた。
呆気に取られた恵一を、少女は薄く笑って見つめるのだった。
そして、今に至る。
「…。」
何が気に食わないのか、珠希は恵一とその少女を交互に睨む。
後から思い出した事だが、少女の名は八夜(はちや)みこ。恵一とは三年になって初めて同じクラスになった。
あまり積極的ではないようで、恵一と話したのも今朝が初めてなくらいだ。
「…。」
珠希の重圧に耐え切れなくなった恵一は、空になったステンレスの食器を配膳カートに片付け、廊下に出た。ちなみに給食の時間は教室から出てはいけない事になっている。
「いけないんだぁー。」
「お前と話す為だ、察しろ。」
とりあえず、屋上に向かう。
(素行不良、て見られるよな…。)
陽射しが強くなり始めた六月中旬。給食の時間なので誰も屋上にはいない。
「で、だ。なんで俺を親の敵のように睨む。」
「…や、浮気はちゃんと罰しませんと。」
「何が浮気か!?」